『ザ・ファーストカンパニー2015』に掲載

2014年12月

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歴史を受け継ぎ確信を続ける実力者

創業以来、磨き続けた精密板金加工の技術と実績で企業の技術部門代行サービスを積極的に展開

国内はもとより、米国、韓国、ドイツ、ベトナムなど、世界中から視察団が訪れる工場が、神奈川県の秦野中井IC近くにある。エントランスには、独自に編集した日本文化を紹介する映像が流れ、「自社だけでなく、日本に関心を持ってもらいたい」そんな想いで来訪者を迎えている。

その会社の名は、深沢製作所。本金型レス加工による試作、量産板金を得意とする、老舗の板金加エメーカーだ。「納期は最大5分の1に短縮、コストは最大10分の1に圧縮できる」と、社長の栗原正雄が胸を張る突出した実績が、高い注目を集めてきた大きな要因だ。

これまで、工業製品の金属製や樹脂製の部品を製造する際には、本金型と呼ばれる一体型の金型を用いて加工するのが一般的だった。その金型の精度が、製品の質を大きく左右するため、金型の制作に当たっては非常に多くの時間と費用がかけられてきた。同じ製品を大量に生産する際には、この仕組みで十分だが、現在のように多品種小ロット対応が増え、生産サイクルが早い時代においては、非効率になってきた部分も少なくない。

その問題にスポットを当てたのが、本金型レス加工。同社独自の積層金型を用いた製法だ。これは、数枚の金属板を積み重ね、その組み合わせにより凸型、凹型を再現するもの。そのため、「加工の過程でも仕様の変更がスムーズにできる」など非常に可変性が高く、幅広いニーズに柔軟に呼応することができる。さらに、これまでに蓄積された1000点を超えるNCターレツトパンチプレスの汎用型を保有し、その各金型に対してのメンテナンス記録などが、事細かにデータとしてまとめられ、より高い精度を生み出す基盤となっている。

とはいえ同社の強さは技術力だけではない。「お客さまがご注文する製品を、ただ納めれば良い時代は終わりました。今、われわれ部品加工業はお客さまの技術代行部門として、お客さまの製品の市場競争力を向上させることが求められています」と栗原が語るように、製品の開発段階から開発設計者に工法を提案。加工方法を熟知した同社だからこそわかる、さらなる可能性を問いかけていく、独自のVA/VE(注1)提案力こそが最大の武器なのだ。

会社が持つ技術や可能性を、Webや書籍、精度などで積極的に可視化

「日本のモノづくりの強さ、さらなる可能性をもっと見ていただきたい」と言うのが栗原の念願だ。そのため、深沢製作所の強みである本金型レス加工をはじめ、「板金や加工の技術をもっと可視化し共有していくこと」に日々大きな力を注いでいる。

例えば、2014年からスタートした「試作板金加工.com」。これまで、年間2000を超える試作精密板金加工の依頼を受けているが、これらは単なる受発注サイトではない。「VA/VEの実現、納期短縮」「試作精度を向上」など、企業が抱える多種多様な課題に対する改善策や提案などを同社の具体的な取り組み事例とともに、幅広く紹介している。

同時に、これらの情報を集約した「設計・開発技術者のための試作板金設計技術ハンドブック」を作成し、日ごろ気づきにくい実務上のポイントを抽出し、モノづくり企業に広く活用してもらうことで貢献したいと考えている。さらにノウハウを蓄積するだけではなく発信することで、企業の技術部門代行としての役割も果たそうとしている。

一方、社内においても独自のマネジメントシステム内にさまざまな工夫が見られる。例えば、23項目に分類し、7段階で評価するきめ細やかな職能制度だ。習得した技術力に応じて給料がスライドするほか、名札に「保有している資格の等級」がすべて表記され、外部から見えるように携帯。資格に合わせた作業が割り振られる。このように、目に見えにくい「技術力」への信頼を、さまざまな形で表現し、顧客との一体感を高めていくのが同社ならではの特徴だ。

「当社は、一人ひとりの社員の創造力により絶え問なく生産革新を繰り返し、さまざまな『知』となり、進化をもたらしてきました。おかげで、毎年30社以上の新規のお客さまが増え、ベンチャー系のモノづくり企業の方からの依頼も増加しています。『深沢製作所がいれば、精密板金加工の試作で困ることがない』と、ありがたい言葉もいただいています。今後も、精密板金加工のことなら、気軽に相談いただけるような会社でありたいですね。そして私たちだからこそできる精度と納期でサービスを提供し、日本製造業の活性化に貢献していきたいと考えています」

わが社はこれで勝負!

大手家電、AV機器メーカー向けなど、これまでにかかわった試作アイテムが、20万点超。これらの実績によるノウハウの積み重ねや、保管された1000種を超える金型、社内のナレッジの仕組みが、精度の高い試作環境をつくりだしている。

(注1)
(ValueAnalysis/ValueEngineering)いずれも、顧客に提供している付加価値を向上させるための分析手法のこと。