『Sheetmetalましん&そふと』2014年10月号に掲載

2014年10月

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Webを活用した企業価値創造の取り組み

売り手視点を捨てた設計者視点のWebサイトで、新規問い合わせが増加

「試作板金加工.com」と実証加工に対応した見せる工場「板金体感工場」の連携を目指す

実証加工に対応した「板金体感工場」

深沢製作所は、1968年の設立以来、大手メーカー向けの試作・量産試作・量産の仕夢に取り組んできた。しかしこれらの得意先は、バブル崩壊後の1990年代から生産のグローバル化を推進。2001年のITバブル崩壊後は、設計・開発部門と製造部門を丸ごと海外ヘシフトするような大胆な“リエンジエアリング”を進め、調達先の集中と選
択を強化した。それまで同社が手がけてきた仕事も、量産を中心に海外ヘとシフトしていった。
生産のグローバル化に対応するために栗原社長が採った方策は多岐にわたる。中でもユニークなのは、2007年に
現在地(神奈川県足柄上郡)|こ建設した新工場。この工場は「板全体感工場」というコンセプトをもち、得意先だけでなく、海外メディアや同業者にも積極的に公開している。
代表取締役の栗原正雄氏は「見せる工場—-工場のショールーム化を目指しています。引合いをいただいたお客
さまには、できるだけ当社の工場を見学していただき、モノづくりの現場をご覧に入れます。また、製品ショールームのスペースでは、加工製品に実際に触れていただきます。また、見学前に製品データをお預かりできれば、工場見学中に実証加工を行い、見学後には加工提案を行うとともに完成品を持ち帰っていただくこともできます」と語っている。
新工場建設に合わせて、ベンディングロボットシステムASTRO-100NT(マニプレーター付き)を導入。99工程まで曲げられる独自仕様で、ロットを問わず、中曲げや切り起こしなど、人手で加工するには難度が高く時間がかかる製品は、コストダウンを実現するためにASTROで加工している。今年は大型化が進む電機製品の曲げやステップベンド加工に対応するため、ベンディングマシンHDS-1303NTを導入。1,000種類以上の金型を保有するパンチングマシンEM-255NTのほか、デジタル電動サーボプレスSDE-3030も保有しており、試作だけでなく型化・小規模量産までトータルで対応できることを見学者にPRしている。
また、3次元CADを導入して得意先メーカーと共通のプラットフォームを構築し、高い設計力・提案力を備えているだけでなく、コーヒー焙煎機やデザイン性の高いアタッシュケースといった自社製品も開発している。
2007年に現在地へ移転してからは、Webサイトをリニューアル。2012年と2013年にはドイツ・ハノーバー見本
市会場で開催された「ハノーバーメッセ」にも出展した。また、異業種交流会や従来からのネットワークを活かして得意先を拡大していった。
こうした様々な取り組みを続けてきた結果、リーマンショック前は20~ 30社だった得意先が現在では100社前後まで増えた。

新規開拓を目指しWebサイトをリニューアル

こうした取り組みと並行して栗原社長が採った方策のひとつが、Webサイトの充実によるインターネット上での情報公開と認知度向上だった。工場移転後には、サイト上で会社紹介の動画を公開。それとともに具体的な加エサンプルを提示して、提案型生産設計、多品1種少量生産から大量生産まで対応できる生産体制、全社一丸となった品質管理体制、人材教育体制などをPRした。これまでのようにただWebサイトを制作・公開するのではなく、検索エンジン上で同社の技術を必要としてくれる設計者の日にとまるように、SEO(検索エンジン最適化)対策によって検索結果の上位に表示されるような取り組みも行った結果、新規の問い合わせが入ってくるようになった。その中には大手重電メーカーからの引合いもあり、「Webが新規開拓のツールになるという実感を得た」(栗原社長)という。
「その一方で、継続的に開拓につながらないという物足りなさも感じていました。リニューアルが完了したことで、仕事が終わってしまったような雰囲気になってしまったことも気がかりでした。SEO対策も、日常的な実務をこなしながら継続していくのは困難でした。“待ち”の状態に陥り、次にどのようなアクションを起こせば良いのかわからず、つくったきり、そのままになっていた期間が長く続きました」(栗原社長)。

「試作板金加工.com」立ち上げ

2013年、栗原社長は自社のコーポレートサイトとは別に「試作板金加工.com」を立ち上げることを決断。全従業員を巻き込んで、同社がこれまで培ってきた技術・ノウハウを思い切って公開すること|こ決めた。全従業員がつぎ込んだ時間は延べ300時間以上。半年の準備期間を経て、同年12月に満を持して公開した。
「試作板金加工.com」では、これまでのWebサイトのような売り手視点ではなく、設計者の視点(買い手視点)に立ち、業界・材質・工法。困りごとといった切り口で細かくカテゴリ分けを実施。さらに設計者が設計段階からコストダウンや品質向上や短納期設計を実現できるポイントを掲載し、本当の意味でモノづくりのサポートができるWebサイトの構築を目指した。
「『試作板金加工.com」が発信したい情報は、会社紹介ではなく加工技術。当社は設立以来45年にわたって試作開発をお手伝いする中で、延べ20万アイテム近くを製作してきました。そこで加工技術。ノウハウ、VA/VE提案の手法を提供することで、日本のモノづくりのお役に立ちたいという思いが強くありました」(栗原社長)。
こうした考えの根底には、「企業は公のものである」という同社の基本理念が横たわっている。
「当社が一企業として競争力を高めることよりも、当社の加工技術・ノウハウをお客さまに活用していただくことで、日本の製造業全体の競争力を高めることに貢献していきたい」(栗原社長)。
さらに、Webサイトと併せて「試作板金設計技術ハンドブック」を編集・制作。この技術ハンドブックは全50ページ、設計・開発技術者を対象としており、試作板金加工の基礎知識と実用知識について同社がこれまでに受けた相談・質問の内容を反映し、さらにそれらをVA/VE・コストダウン・納期短縮・トラブル回避といった設計のポイントごとに体系化して掲載している。
「中身はある意味、基礎の基礎。これから板金設計を始める方々の参考になれば嬉しいというレベルです。飛び抜けた技術が掲載されているわけではありませんが、日ごろは気づきにくい実務上のポイントを抽出しています。第2弾、第3弾と継続し、公共展で引合いをいただいたお客さまへ進呈することも考えています。当社よりも優れた技術をもっている企業はたくさんありますが、そこは当社の情報発信力や行動力でカバーしたい。お客さまにはこうして当社が発信した“知恵”を利用していただいて、良いものを速く、安く、つくることで日本の製造業全体の競争力を高めてほしいと思います」。(栗原社長)

標準化ノウハウを活かしコンテンツ作成

Webの制作は外部に委託することもできるが、コンテンツは自社が用意しなくてはならない。
コンテンツの制作においては、ISO9001の取得を通じて、標準作業書や標準仕様書のようなかたちで生産技術を誰
にでもわかる形式でアウトプットするノウハウをもっていたことが大いに役立った。さらに、主要得意先との継続取引の中で、検査レスで納品する「自主認定」を受けるための監査、環境関連物質管理に対応したグリーン調達認証の取得といった様々な要求に応えてきた経験・知識も力になった。
「試作板金加工.com」の立ち上げに際しては、栗原社長が社内全体にメッセージを発した。主要メンバー6人が
中心となったが、公開する加工技術の粒だしのような細かな情報収集は社員全員が携わった。
営業体制は、営業2名とWebの受付担当1名。
「Web上で問い合わせをいただいて回答するだけのつながりでは、決してうまくいきません。Webサイトはあくまできっかけ。それと同時に、フェイス・トゥー・フェイスの営業を行っていく必要があります」(栗原社長)。
Web経由の問い合わせは玉石混淆だが「ご相談の内容によって対応に差があるということは決してありません。そ
のときの仕事ではご縁がなくても、ご紹介で取引につながる可能性も十分にあります」(栗原社長)という。

次世代車いすの開発試作を手がける

2013年12月に「試作板金加工.com」を公開以降、半年の短い間に、多くの問い合わせが寄せられているという。
「聞い合わせをいただくのはベンチャー企業や、大手メーカーでもエネルギーや医療・福祉といった新しい事業部が多く、日本国内で新しいモノを生み出そうとしている息吹を感じます。当社は電機業界で45年間蓄積した技術でそうした新産業の成長にも貢献していきたい」。
「その象徴的な仕事が、米国シリコンバレーと東京を拠点とするベンチャー企業WHILL, Inc様が開発した次世
代車いす『WHILL Type- A』の開発試作です。WHILL,Inc様はソニー、トヨタ、日産自動車、オリンパスといった企業出身の若手エンジニアで構成され、『WHILL Type- A』はスタイリッシュで直感的に操作でき、砂利道や雪道といった悪路や最大7.5 cmの段差も走行可能なパーソナルモビリテイとして、世界的に注目されています」。
「WHILL,Inc様のエンジニアの方からWeb経由で問い合わせを受け、工場見学に来ていただきました。その場で
試作をし、持参された部品と組み合わせてみて、干渉する箇所を削って、再び組み合わせて、動かして—-といった当工場の目玉でもある実証加工を実際に行いました。自分たちが考えるコンセプトに従って真摯にモノづくりと向き合っている方たちからの依頼には、当社も意気に感じました。エンジエアの方の『日本には世界一の試作環境がある』という言葉が、特に印象に残っていますJ(栗原社長)。

物理的距離・参入障壁をなくすWebの力

それ以外にも、太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギー関連、燃料電池関連、計測器、情報通信機器や
AVC機器などの名だたる大手メーカーから、Webを通じて問い合わせを受けているという。
「大手メーカーでも、新しい産業分野に取り組む新しい事業部門では、従来取引に縛られることなく、Web上にアンテナを張って、自分たちが求める技術や提案を提供してくれる企業とコンタクトを取ろうとしています。そのとき、物理的な距離は関係ありません。物流環境が整備されたことで、国内のどこへでも翌日には届けることができます」。
「とはいえ、売上が格段にアップしたとは言いがたい状況です。それでも『試作板金加工,com』経由の仕事が占め
る割合は確実に増えてきており、半年という短期間での手応えは十分です。加工上のご相談条件も多く、今後さらに信頼を獲得し、継続取引につなげていこうと社内が活気づいています。通常、新規のお客さまを何度も訪問し、口座を開設していただくまでの障壁は非常に高く、至難の業といえます。しかしWebを通じてお問い合わせいただければ、少なくともスタートラインには立つことができます。その意味では、Webは物理的な距離だけでなく、参入障壁をもなくしてしまうきっかけをつくってくれると思います」(栗原社長)。